2015年3月16日月曜日

幕が上がる(2015)



~指標~ 

〇はじめに 
 黒木華が本当にすばらしい。同じ先生役でも「ソロモンの偽証」のあの苛立ちを覚えた担任。「花とアリス殺人事件」の少し天然系の担任。そしてこの「幕が上がる」の姉御肌。それぞれの教師像を演じ分けるのはいったい何なんだと。この作品においては、頼りがいのある存在で、腹から声を出すというか、ドスの利いた声というか、すごい響くんですよね。 
・・・ちょ、嘘だろ・・・24歳かよ(もう25か)・・・・・・・・・・蒼井優の方が年上・・・だと・・・ 

〇想起する作品
「くちびるに歌を」(2015)
「あさひなぐ」 こざき亜衣 (2011~)

〇こんな話
 とある演劇部の日常と非日常。

〇ストレート
 それぞれの関係性を描く上で、ストレートな感情表現が目立つ。そんなに友達や先生に対して真っ直ぐに思いを伝えられるものかと首をひねる部分が無かったかと言われれば嘘になる。主人公の心の声や迷い、イラダチがあるにはあった。一人で抱え込み、爆発することで人に当たってしまう。自分の面倒くさい性格として自覚しており、それで片付けていたのだが、その辺のぐちゃぐちゃした闇をもう少し描いても良かったように思う。しかしその感情の矛先が演劇というものに向いたとすれば、先生が向けさせたとすればこの問題は解消か。 
・・・まぁこの真っ直ぐな感じがこの作品の良いところなのであるが。

〇指標
 最初に審査員に対する不満ではないのだが、演劇に対する評価がよくわからないといったような台詞が入る。実力がわかりにくい、客観的な判断というよりは、主観で好きか嫌いかが一番に反映されるであろう演劇。観客に観(魅)せなければいけない、観てもらわなければ話にならない。その指標として、黒木華演じる新任の教師が活きてくる。役者として女王とまで呼ばれた者の、お前たちの実力はこれくらいだという指標。この人に教われば、付いていけば確実に成功するだろうという彼女の実力という裏付けや示唆。結果がなかなかに見えてこない、結果を出す部分が無いこの演劇部にとっては絶好のアクセントだ。

 アクセントなのだが、黒木華の存在が途中から、というか登場から際立ち始める。そしてこれを高校生の立場の者たちがどのように脱却し、自律を図るのかというところが気になり始めてしまう。指導者としてこれほど適任な者はいない。しかし彼女に頼り切ることで結果を残しても、何ら意味は無い。才能があろうとただの操り人形だ。彼女たちに何が残るのかと。 そこは元役者ということを活かしてきた。劇中は出張と言うことで席をはずし、自分との共通項を見出した者に、演出家(指導者的立場)をやらせるという、自分の代替者を用意した。付き従う者ではなく、対立する関係にあると。
 ここの共通項を見出すところがまたうまいんですは。主人公はまず欠点の方に目が行ってしまう、気になってしまう。その心の声の後に、先生がまず相手のどこかしらを褒めてから、主人公の気になる部分と同じ箇所を自分の意見として指摘する様を観せる。ここがまず二人の差ですよ。いきなり否定はしない。ある程度受け入れてから、相手のご機嫌をとってから自分の意見を述べる。そして差はあるものの、主人公にとってはうれしいわけで。自分と同じことを考えていたと。その分野では絶対的な存在であった人物と同じ意見を共有していると。それは自信にもつながっていくわけで。
--- 例えばですよ。何かの授業やら講義、講演などで教壇に立つ者が質問を発したとする。誰も答えを出さない中、自分はその答えがわかる。しかし本当に合っているのかと。間違いを恐れ、答えられなかったりするのである。そして答え合わせをしてみたら、やっぱり正解だったと。後悔する反面、勝手にシメシメとうれしかったりするのである。そしてそのうれしさを知ってもらいたかったりもする。もしかしたら、こちらの意図をくみ取ってくれることもあるかもしれない。発言はせずともわかった人がいたであろうと理解を示し、激励してくれるかもしれない。それを繰り返していくことで、次の同じような場面で、自分の能力に対する自信につながるのである。そんな演出がちょくちょく入る(ってたはず)。 ---
 彼女たちの演劇は決して先生の作品ではなく、彼女ら自身で創り上げたものだ。主人公も自分の力だけではないというようなニュアンスの言葉をひたすらに使っている。そしておそらく先生という存在、指標の消失が、彼女らの自立を促すだけでなく、不安感の演出だったりもするのだろう。舞台の上でならどこへでも行けるという事柄と対を為すものとして、絶対に辿りつけない場所があると。そして自分はどこにいるのかと悩んでいたりする。学業、進路、やりたいこと、様々な思いや悩みが交錯する時期を一生懸命生きている。この作品はそんな彼女たちの成長を純粋に楽しめればいいのではないだろうか。

 そして輪に入ってこれないお笑い担当の顧問の存在も実は良いスパイスになっている。男であるが故というのもあるのだろう。最後まで東京03の角田に見えて仕方なかったのだが、締めるところは締める。すばらしかった。でもやっぱり笑いとってくるんだよな(笑) 最後の滑舌イジリ。終始ユッコの父親何言ってるかわかんなかったもんな。滑舌というコンプレックスを持った転校生とも掛けていたのだろう。


〇余談 
 ももクロは青が好きです。

 黒木華さん、今回の役は美術の先生ということで、スモック姿が非常に板についていたので、次教師役をやる時は是非白衣を常に召している役でお願いしたいと思います。最近悪いイメージがついてしまったいわばリケジョですね。是非。

 燃やす台本のタイトルが「ウィンタータイムマシンブルース」
なるほど監督が同じなのか。

〇最後に
 ももクロである必要があったのかと言われれば疑問である。しかしこの真っ直ぐな感じはももクロだからこそ出せた雰囲気ではなかろうか。そしてももクロ故の話題性と、逆に目に触れない方々が多くいるだろう。実にもったいない作品だ。

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