2014年5月26日月曜日

マッチスティック・メン(2003)

マッチスティック・メン[DVD]


~騙される方が悪い??~

〇こんな話
 主人公は詐欺師であるが、強迫性障害且つ潔癖症を患っている。薬である程度は抑えられるものの、無ければ家中を隅々まで掃除しだす始末。何かしらを開閉するときは1,2,3回目で開ける。などなどなかなか凝った人物だ。 薬を処方してもらっていた医者が夜逃げし、新しいセラピストにかかることに。セラピストとの話の中で、娘がいることが明らかになる。そして会うことに。まあ、なんやかんやあって娘も詐欺に加担することになり・・・、はてさて。

〇騙される心理
 まず言っておくのが、この映画は何もコテコテのサスペンスではない。この手の映画に慣れている人は、話のオチの持っていきかたとして、序盤にある程度の予想はついてしまうだろう。そんなことも含めて騙される心理について、勝手に解説というか探っていきたい。

A面:主人公ロイ
・役柄 
 まず彼の性格というか役柄を理解しておきたい。彼は詐欺師であり、自分の教え子兼相棒:フランクがいる。そして強迫性障害と潔癖症を患っており薬が必要(だと思っている)。 薬を処方してはもらうものの、サプリメントでも効いてしまうなど、分析医の言う通り強迫性障害は割と軽度なものだったのだろう。精神障害もあるが偽薬でも効いてしまうという思い込みや、実質騙されやすくもある。 詐欺師という職業(と言っていいかは疑問だが・・・)。人を騙すという技。人を騙してばかりいるわけで、そんな人間を誰が信用してくれるのか。そして誰を信用できようか。アンジェラがパパという対象として信頼してくれるようになれば、そりゃアンジェラにぞっこんですは・・・。 

・境遇 
1,はじまり~新しい医者との遭遇
 妻に逃げられることで精神病発症。ある日薬を処方してくれていた医者も夜逃げしてしまう。新しい医者(セラピスト)をフランクに紹介してもらうことになる。ここからはじまっている。 
(ここでのポイントはセラピストを紹介したのは相棒のフランクであるということ。最初この段階では気付かなかったが、最後まで観てよくよく考えたら、相棒のフランクとしてみたら、大金のかかる仕事に関して精神病を患っている相棒がいたんじゃ迷惑極まりないよなと。病気を治すことに協力するより、手近にいる相棒を騙して大金せしめる方が詐欺師としては性に合う。) 

2,新しい医者との遭遇~娘との出会い
 新しいセラピストにかかることで、個人情報を小出しにしていかなければならなくなる。彼としては症状を抑えるがために薬が欲しいというのと、医者と患者間の会話の内容は外部に漏らされないという信頼からというのもあったのだろう。
(ここでのポイントはまず、セラピストとの会話で主人公が自発的に子供がいるかもしれないという情報を提供しているということ。主人公としては離婚した当時妊娠という事実があったために、その事実が無いわけではない。)
(そして二つ目のポイントとしては、子供の情報はセラピストから間接的に仕入れているということ。彼は元妻に直接連絡を取れない。子供がいるかもしれないという事実を確かめられないがために、セラピストに間接的に連絡を取ってくれるよう依頼する。彼自身子供という存在に何か期待を持っているような見解を示しており、いるとしたら14歳の息子だろうかという話になる。結局いたのは娘と。)
(そして三つ目のポイントは、自分が想像していた理想的ともいえる状況がほとんどそのまま体現されるということ。ほとんどというところがミソで、決して完全な形ではない。理想とされる状況が完全にそのまま再現されていたのならば誰もが疑ってかかるだろう。しかしこれは息子と娘という多少の違いを孕んでいる。そのギャップが人間関係を埋めようとする意欲につながる。そして信じるという行為に至り、疑うという行為を軽視するようになる。)

3,娘との出会い~父親として
ここでポイントを一旦整理する。 

一、医者は相棒のフランクが紹介した者 
一、子供の情報は主人公が自発的に発したということ 
一、娘の母親(元妻)に直接連絡が取れず、セラピストから間接的に情報を仕入れているということ 
一、彼の妄想がほぼ完全に再現されるということ 

上記のポイントにハメる・ハマるとともに、娘との距離を縮め、詐欺という所業に娘が携わりはじめる。この時点で詐欺は9割型完成されている。しかし最後まで騙しきらなければ、これまでの工程は水泡に帰す。騙すポイントを抑えたところで、人を騙すには結局役者(娘アンジェラ)の演技力に任せられる。うん、実にいい演技だった。詳しくは次のB面:アンジェラで。


B面:娘アンジェラ 
・役柄
 娘の14歳という設定も大きい。思春期でありいろいろ問題を抱えている年頃。そこまで子供でもないし、そこまで大人でもない。発言の全てが真実とは限らないし、嘘とも限らない。こちらからそこまで情報を掘り下げるわけにもいかず、ロイからは徐々にアプローチしていかなければならない。しかし彼女はズケズケと彼に侵攻してくる。複雑な関係である。 
・・・とはいったものの、劇中で詐欺師としての教えをロイがアンジェラに説く場面で「詐欺師は何を売るのか」という話で、ロイが「売るのは自分だ」と言う台詞がある。ここから、何も彼女は14歳である必要は無い、ということがわかる。そして14歳であったかが定かではない。つまり、14歳でロイという人物の娘:アンジェラであるという彼女を、ロイに対して売っていたということになる。

・彼女専用の番号
 母に内緒にしているということと、娘から渡された者なら父親ならうれしいほかないだろう。 

 そんなこんなで父親であればニヤニヤしてしまうような展開にうまく持っていかれて、疑う余地を見事に排除される。そしてニコラス・ケイジの少しスケベな感じの顔がまた映える。


〇余談 
 普段行くスーパーのレジの担当が元妻、という設定だったらもっとおもしろかったのになぁ~。最後ヘザーという元妻が出てくるのだが、そのレジの女性とすごく容姿が似ている。この設定にすればそんな近くにいながらも何の情報交換もしない、できないという独特な雰囲気と緊張感を作れたではないか・・・と言ってみる。似たような女性を好きになるということなのだろう・・・?。 


〇最後に 
 騙されはしたが結果的に彼は詐欺という犯罪から足を洗うことができた。 詐欺を働いていた時の彼の見解は、 
「俺は詐欺師だが、金は奪ってない。相手がくれたのだと。なぜなら拒んだ相手からはもらってないし、暴力もはたらいてない。」 
強制ではなく任意だったと言っている。何と都合の良い解釈だろうか。そりゃ不安な気持ちに付け込まれて騙されてるんだから、ホイホイお金を渡してしまうだろうよ・・・。 しかし最後のアンジェラのある問いに対して 
「お前は盗んでない。金は俺があげた。」 
と答える。ここから心境、見解の変化が伺える。今まで正当化していた自分の詐欺師としての解釈を、ただ被害者の視点として捉えることで、アンジェラを擁護したともとれるかもしれないが・・・。詐欺の被害に遭うことで、アンジェラの安否を確認するために、ずっと連絡が取れなかった元妻に直接に会いに行くまでにもなる。つまり詐欺による被害よりも、アンジェラという存在の喪失の方が大きかったのだ。そんな彼に欠かせない、大切な存在を失うことでどういった答えを導き出すのか。大切な者をこれからは持たず、詐欺師として活動を続けていくのか、それとも大切な者を失わないように詐欺という犯罪から足を洗い、真っ当な生活を送ろうとするのか。彼は後者を選んだ。だからこそかはわからないが、アンジェラとも再開することができ、赦し合う?こともできた。結果的にハッピーエンドというわけだ。騙されたという喪失感よりも、何か心温まるものを感じる終わり方であった。おもしろかった。

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