2014年7月18日金曜日

CARGO(2009)



~東亜重工~


〇世界観
 人類は地球に住めなくなり、ある者(富欲層)はレア星という人類が生存可能な地球型惑星へ、またある者(貧困層)は宇宙ステーションへ避難している。レア星とステーション及び貨物船では通信ができ連絡を取り合っている。 

 主人公は医者である女性で、仕事上ある貨物船に乗り込むことになる。ある時異常事態が起き、船内を調査することに。そこから起きる不可思議な現象にあたふたしながら、謎解きを開始する。そこから明らかになる真実とは・・・。

〇仮想現実 (レア星)
 レア星への居住計画は失敗しており、救急措置としてレア星とされる仮想現実で、レア星は無いという事実を人類に対して隠していた。人類の唯一の希望を無くしたくないというのと、様々な利権が絡んだが故だろう。レア星に囚われるあまり目を背けていたものがあった。失われたとされていた地球は回復していたのだ。


 貨物船の積荷は冷凍されている人間だった。貨物船はレア星とされる座標に向かっていた。積荷になっている時点でレア星という夢を見ていることになる。いや積荷として届けた時点で夢を見始めるのか(まぁ、どっちでもいいのだが)。夢というところに着目する。そして現実と交信ができるところに。交信の様子から、距離の関係上リアルタイムで会話は成立させることはできないものの、レア星の人たちが見ている夢(仮想現実)は現実世界と同じ時間の流れである。 

 より話を広げるために、この設定に関して勝手な要望を挙げるのであれば、レア星と現実世界とでの時間差を取り扱って欲しかった(レア星と船との通信の速度の違いにより目的地の見当をつけるというのはあったが・・・)。夢を見ている対象の意識は、現実(一年は365日で、一日は24時間・・・というような常識)と錯覚して作られる世界であると思われるが、夢の中の世界ではやはり現実と時間の進む速度が違うのではないだろうか。皆さんは無いだろうか。たった数時間しか寝ていないのに、壮大なRPGを実際に体験するような夢を見たり見なかったり。劇中では通信距離の関係上、夢と現実世界の交信において、現実世界が違和感を示した。できれば現実世界に夢の世界が疑問を投げかけるという逆の状況も欲しかった。現実世界にしてみたら定期的である交信が、夢の世界では偏りを見せる。現実世界では1カ月ぶりが、夢では1時間ぶりとか。 逆かもしれない。

 この設定にした際に起こりうる会話を妄想してみる。
(注、距離の関係上通信には時間がかかり、リアルタイムで会話が成立することはないのだが、おもしろおかしくするためにわざと成立させています)
妄想会話 パターン1 
 現実世界(妹):「姉さん、久しぶりね。1カ月ぶりくらいかしら?」 
   夢      (姉):「え? さっきまで話してたじゃない。」
           (何とち狂ったこと言ってるのかしらこの子?)

妄想会話 パターン2 
 現実世界(妹)「姉さん、さっき(何かしらのイベントの話)の事なんだけど・・・」 
       夢     (姉)「まったく、ずっと連絡しないで。何様のつもりよ!! もう予定の日           過ぎちゃったじゃない。」 
 現実世界(妹)「え? 予定の日、明日なんですけど・・・」
    夢     (姉)「え?」
 現実世界(妹)「え? (ピンポーン) おっと誰か来たようだ。」

 夢ならではの時間と現実の時間の進む速さの違い。あれ、歳とってね? みたいな容姿の変化でそれを取り扱ってもらってもよかった。急速に進む姉妹の歳の差など。何かしらのギャップがな~、欲しかったなぁ。

 仮想現実を見せる上で為されるコールドスリープも完成されたシステムでなく、夢の中ではウハウハ体験をしている一方で、実体の方はどんどん腐っていっている。他にも杜撰なシステムが目立つが、これが世界観をより深めている気もする。

〇ジャパニーズ
 最初のタイトルに書いた東亜重工というのは、弐瓶勉という漫画家の作品に出てくる架空の企業でして、この方の描くSF的世界観のスケール(人間と建造物の大きさの対比だったり、重厚感だったり)に似た感じがしたので勝手に使わせていただいたとただそれだけです。 そしてちょくちょくわかるようでわからない日本語が使われています。そんなところからも弐瓶勉さんかはわかりませんが、なにかしら日本の文化の影響を受けているととってもいいのではないでしょうか。 読み・聞き取れる部分だけでも書き出してみたいと思います。 

宇宙ステーション内にて
・「COME 来 TO RHEA」
  →「レア星へ来たれ」みたいな感じでしょう。「来」という漢字だけを使うという、何か命令めいた感じも受ける。
・「安全を確認してご案内ください。」
  →何か危険なものがあるのでしょう、見当たりませんが。
・「歩行者信号が赤になります、横断は止めてください。」
  →何のことやら、ステーション内に横断歩道があるようで。道路、いや車すら無いのですが。
・「~です、こちら側のドアが開きます。」
  →両側に扉がある乗り物があるのでしょう。しかし、流れているのは待合室的な場所です。乗り物の欠片は一切ございません。

貨物船の扉にて
・「乗員組」
  →おそらく乗組員のことでしょう。しかし入口的なところに書いてあるので、搭乗口とかにしたかったのではないでしょうか。
・「高度安」
  →貨物室の入口にデカデカと書いてある。高度というところから気圧関係なのか、寒そうな描写があるから気温関係なのか。文字の大きさから何かしらを注意させたいのは確かです。 
テレビ放送にて
・「FOR YOUR SECURITY, PEACE AND PROTECTION」 
  = 「和平保全安全」
・「ALERT LEVEL Ⅲ FROM ~ BREAKING NEWS・NEW ATTACK ON STATION 27・RAIDS CONTINUE」
  =「警戒レベルからの最高~ニュース速報・新しい攻撃を駅 の襲撃を続行・・・」
・「新たな攻撃の危険性の警告レベルの高いセキュリティ」
  →相当に危険なんでしょう、警戒してください。
・「REVOLUTION」 
  = 「波脳波」
  →なんかもうサイコメトリックでわけがわかりません。 ん?、と待てよ、脳波? 
   もうこの映画の革新に迫りそうではないか。この文字が出たのは序盤も序盤。貨物船に乗ってすぐのテロリストの存在を周知した時点。仮想現実というのがこの映画のキーワード。この時点でレア星=仮想現実と少しながら結び付けられる人がいたら、その予想はこの文字で確信に変わるのではないだろうか・・・。
・「重要新聞」
  →浸透している語で言うなら、重大ニュースとかでしょうか。 

 などなど他にもあるかもしれないので探してみてください。 

〇最後に 
 実際に苦しい現実(だと認識している)世界を生きるのと、この映画のように夢とは知らずに幸せであろう生活を送るのと、人類にとってどちらを選択することが正しき道なのだろう(正しいという言葉は適当ではない気もするな)。この映画の場合、地球は回復していたという希望が見え、選択肢が残されているからこそ彼女の最後の行動は正当化される。もし地球が回復していなかったら? 彼女は人類に対して絶望を突き付けることになる事実を公表したのだろうか。

 レア星は人類にとって最後の希望であった。仮想現実であってもだ。仮想現実と知って尚、レア星へ行こうとする(行った)者たちもいた。苦しい現実から目を背け、レア星への逃避行を選択する。現実で苦しんで死ぬよりも、現実の実体が苦しんでると知らずに楽しい夢を見ながら死ぬ方が誰だって良いだろう。何を好んで苦行に奔る。目の前に楽で幸せな生活が待っているというのに。
彼女は最終的にレア星との交信を断つだけであって、レア星という夢を終わらせたわけではない(多分)。そこに慈悲が見てとれる。レア星を目指した人たちは何の罪も無く、ただ騙されていただけなのだから。レア星で幸せに死にゆく者たちに対して、わざわざ現実を知らせる必要もないだろう。しかし、現実世界にはこれからを生きる者たちがいる。その者たちがありもしないレア星という希望を夢見ている。地球という回復に向かっている故郷を捨ててまでだ。手を伸ばせば届く希望が幸せな夢なのか苦しい現実なのかの違いだ。そこが大きい。だからこそそれを見て見ぬフリはできない。たとえ絶望を与えることになってもだ。ありもしない幻想よりも、伝えるべき厳しい現実を優先すべき、という彼女の選択は正しいようにも見える。

 しかし、結局は人類にとっての希望を、レア星という夢物語から、地球は回復している(これから人類の手によって復興していかねばならない)という厳しい現実に置き換えただけ、ということになる。先ほども言ったが、この置き換えるべき希望が無かったらどのような選択をとればいいのだろうか。「レア星はありません。希望もありません。人類は滅亡します。」と公表するのだろうか。彼女の至る選択は、夢と現実という違いが一番に大きな要因なのであるが、選択するものが無かったらという考えに私は囚われてならないのである。

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