2017年9月26日火曜日

母 小林多喜二の母の物語(2017)

~手~


〇はじめに
 小林多喜二の母セキの目線で時代の移り変わりが映し出されるが、気になるのはこれを観たことで共謀罪と治安維持法とが通ずるかよね。今当たり前にあることが昔は…として女性の生き方に貨幣価値というもので描いたギャップはうまかったが、家族という繋がりを描く上での時代の変遷はどうもぶつ切り感覚。いきなり増えていく家族がどうも腑に落ちない。それ故にいきなり現れる妻を名乗る女との対比も効いていない気がする。



〇想起する作品
 「おしん」(2013)
 「少年H」(2013)
 「母と暮らせば」(2015)
 「おかあさんの木」(2015)

〇こんな話
 小林多喜二の母の物語




〇手
 母セキが多喜二の、多喜二が母セキの手を握るシーンが幾度かある。とても印象的なシーンだ。母が大事そうに包み込むその多喜二の手は何をしたのか、しようとしたものだったのか。多喜二の帰りを待ちおはぎを仰山拵える画が丁寧に映し出されるが、この母の手は何をしてきたものなのか・・・

 小林多喜二が特高の拷問により死んだことはもちろんであるが、その拷問により手の骨を全て折られるということは何を意味するのか。これをもっと根幹に据え描いていって欲しかった。拷問を受けた多喜二のボロボロの手を映し出してほしい、ボロボロになっていく手を映し出してほしい。その拷問シーンと母セキの丹念におはぎを握るシーンも是非とも手を中心とした対比で描き出してほしい。


 幼少期の多喜二がおはぎを食べるシーン。家に帰って来るや否やおはぎを手に取るが、ここで母が「手を洗ってきなさい」と一言あったらどうだっただろうか。子供が外から帰って来ることは汚れて帰って来るのと同義だ。失礼ながら貧乏という設定なら尚更である。ぼたもちを食べる手、小説を書く手。多喜二の手というものに頭が行かないだろうか。これだけで手というものが印象に残らないだろうか。

 娘チマが指輪を落としてしまったからと探すシーン。母が排水溝に手を突っ込んでいるシーンを描いてほしい。排水溝を弄るシーンをボカさずに詳細に描いてほしい。母は自らの手をいったいどこにどんな場所に晒しているのか。その手で指輪を探し当てたのだと。自らの子どものためになら母は手を汚せるのだと。語弊があるが、悪いことをする罪を犯すといった意味ではなく単に我が子の幸せを想えばどんなことでもしてあげたいといった意味合い。


 セキが牧師様に多喜二への想いを連ねた手紙を読んでもらうが、ここでセキがそれを書いているシーンを入れられなかったか。文字を読めない母親が一生懸命に想いを書き起こしたんだ。これは多喜二が自分の主張を小説に託したものと通ずるものがあるはずだ。



 そんな手を特高は傷つけたのである。ボロボロにしたのである。殺したのである。




〇時代のギャップ

 セキのイメージとしてある駐在さんの優しさ。その優しさとは真逆である特高という対比があるわけだが、友情出演だろうか涙もろく一番優しいというイメージが先行するだろう徳光さんをあてがっている。正直これは逆効果ではなかったか。劇場には笑いが漏れていたが、ここと特高とを結びつけられた人はどれだけいただろうか。

 多喜二が死んだことで母は神に対して背を向けたはずだ。それが何故キリスト教信仰に向かったのか。多喜二の姿をキリストに準え聖母マリアに自分を重ねたことが1つ動機としてあるがどうも腑に落ちない。多喜二の意志は散々描かれるが、多喜二の行動は伴っていないと観てしまうからではないか。それもはじめに書いたがどうも時代の変遷がぶつ切り感覚だということに起因する。




〇偏見
 私はとある上映会にて鑑賞させていただいたが、上映の前に監督とは別にある方の挨拶が入った。これが完全に足を引っ張ていたように思う。映画を観たことで何かを芽生えさせるというよりも、まず偏見ありきの主張を聴かされて作品にアプローチさせられた気がした。


 舞台挨拶から受け取ることができた監督の想いの強さの反面、作品からはそれが感じられにくい。どうも言わんとしたいことが先行してしまっており、作品に想いを込めるというのが空回っていた印象を受ける。何か1つで良い、上にも書いたが例えば「手」というものを芯にブレないものが欲しかった。





〇余談
 松本若菜って「駆込み女と駆出し男」のお種役の人だよねやっぱり。綺麗だね。相田翔子と佐々木希の雰囲気がある。

 趣里って人は足立梨花と上戸彩の雰囲気だね。






〇最後に
 私の席の隣の方は序盤からうつ向いており終盤に差し掛かるとスマホをチラつかせ、後ろの席の方は終始ビニール袋でゴソゴソと音を立てていた。そしてエンドロールにてぺちゃくちゃと話をしながら席を立っていく多くの方たち。まだスクリーンを観ている者がいるのに堂々とその視線を遮っていく。

 そんな彼らはこの作品から何を感じ取ったのだろうか・・・


 ではでは・・・


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