2014年9月25日木曜日

オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~(2013)

オール・イズ・ロスト[DVD]


~執着~ 

〇はじめに
 「ゼロ・グラビティ」の対極にある映画といっていいのではないだろうか? というのがこの映画を観ての感想。 人間が不自由を味わうのは何も宇宙空間だけではない。地球にもある。

 台詞がほとんど無いことで、彼の心情や行動原理・理由は彼の動きや表情から鑑賞者が探るしかない。さらには彼の境遇すらわからない。わかるのは用意周到で準備に余念がないことぐらいか。ま、一番最初にべらべらしゃべり始めたのにはさすがに笑ってしまった。手紙の朗読か何かなんですけどね。

〇想起する映画 
 「オープン・ウォーター」(2004)
 「パーフェクト・ストーム」(20000)
 「ライフ・オブ・パイ」(2012)

〇こんな話
 海で遭難したひとりの男のお話。



〇執着 
~生への執着は何から生まれるのか?~ 

 我々は生きる上で大半が「生きるためのベストな方法」ではなく、「ベストに生きるための方法」を模索している。 彼のような生死を分ける状況で描かれることでその様はより明白になる。彼の場合は「生き残るためのベストな方法」ではなく、「ベストに生き残る方法」の選択でそれを示してくれる。それはこれから迎えるであろう境遇と、生き残った際の状況を考えてしまい、今(を生き抜くこと)が全てであるのに未来を先見てしまうことからくるのだろう。漂流という状況上あらゆるものが無駄にはできない。後悔先に立たずというが、取捨選択は全て未来の見えない今にゆだねられる。彼のように命の危険にさらされることは日常的にはないかもしれないが、この選択の仕方は普段の生活でも現れているのではないだろうか。

― 後で使うだろう、あるに越したことはない、と物を捨てられないこと ―

そうやって残しておいた物はだいたい使わない。そして取っておいたことすら忘れる始末。だからといって思い出した時もまた捨てられない。思い出したのだからまたどこかで使うだろうと。簡単に言えば、残しておきたい心理ですね。

彼の場合は残しておいたところで使う機会を得ないだけでなく、最終的に全部海に沈みます。しかし最初から全部無かったら生き残れなかったわけでもあり、全部が全部無駄ではなかった。表現としては矛盾してしまうのだが、無駄も必要であったと。
貯金とかもそうなのかなぁ。

残しておきたい心理を踏まえた上で少し飛躍すると、

― 自分を実際より大きく見せるために着飾る(肩書にこだわる)といった行為(プライドとも) ―

にも当てはまる。以下飛躍の過程を少し詳しく。

 この映画で一番に感じたのは、ものへの執着。愛着のあるもの、そうでないものはあるものの、自分のものを手放すということには抵抗があり、覚悟が必要。ここでいうものを捨てるという行為は、今の自分の立場・環境からの逸脱。それは未知の領域に足を踏み入れるということ。自他共に未知である状況(期待や不安などの様々な感情がまじりあう中)では、身分証明に始まり、何かしら自分を証明してくれるものにすがるしかない。最初から信頼など得られない。過去の実績、これからの実績があってこそ勝ち得る信頼。それを証明してくれるのが、何かしらのものだろう。物であるかもしれないし、者であるかもしれない。つまるところ人が執着するものとは、時間の長短はあるにしろ自身にとっての歴史の証明、存在証明をするものととれるのではなかろうか。自分が自分であるという証明とその価値。評価される要素。それほどまでに人はものに依存している。それらの消失は自分という存在(生きること)への疑問に通ずる。人は他人に認められたがるが、その前に他人に認められるための自分であるという証明が必要なのだ。そしてそれは大きければ大きいほど評価される。具体的には学歴、職歴、年収、容姿・・・、などだ。要はプロフィールか。故に大きさにこだわる。だからこそものに執着する。おそらくそのあたりから人は一人では生きてはいけない、という考えが生まれるのであろう。そして究極プライドというかたちでも現れると。  

人類は二足歩行を可能とすることで手(前脚)が空き、脳が発達し道具を使えるようにまでなった。その道具は今日まで便利になることを止めず、ひたすらに人間の欲求を満たすことに努めてきた。その結果、ものに依存せざるを得ない人間を生んだ反面、その代償かツケか人との関わりは薄れ、孤独を求める者も増えた。我々人類はどこへ向かうのか? 永遠の謎である。 

〇過酷 
 遭難して自分の現在位置すらわからない状況に陥る。デジタルが頼りにならない中、アナログに奔る。六分儀の使用法に悪戦苦闘するも、何かこの状況を楽しみはじめているようにも見えてしまう。しかしそんな楽しいことばかりが続くわけもなく、すぐに過酷な状況に陥る。人生は苦楽の繰り返しなのだと。環境に慣れ始めたときに大きな問題に直面し、今いる環境は変化する。そんな変化に適応・対応していかねばならない。そんな状況を切り開いていける力があることが人間の強みなのか。

 周りを海(水)に囲まれながらも、飲料水に不自由するというのもまた過酷さの演出となる。

〇壁 
・船内
 度々描写される、船内と船外を行き来する際の壁の取り外し。引いて、外して、外してと3ステップある。この行為が意味するものとは?  
 これは彼の覚悟の現れではないだろうか。ある種の不安を埋めるためでもあるのだが、生き残るために必要な行為や準備。3ステップあることが彼の覚悟の固さを示している。 

・救命ボート 
 度々ボートの下からの映像が映される。ボートの上という限られた環境でしか生きていけない人間と、海を自由に泳ぎ回り生きる魚たちとの対比、しかしそんな海は一転、弱肉強食な世界という過酷な世界の演出に変わる。あとは孤独と集団とかその辺の対比にもなってるのかな。最後はぶち抜いてくれるのだが。  

〇最後に
 ロバート・デニーロでこの映画を観てみたい。コミカルとシリアスの緩急がよりついて大衆受けしそう・・・、異論は認めます。

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